マスコミのことはどうも信用がならない―、と思っている人は案外多いのでないか。マーク・トウェインもそうだったようで新聞をやゆした短編を残している
▼一人の記者がありもしない出来事を面白おかしく伝え、新聞の部数を大いに伸ばす話である。読者の指摘でうそがばれた記者はこう強弁する。「人が新聞を編集するためにものを学ばなければならんなどというばかげたことを聞いたのはこれがはじめてだ」。記者の役割は世の中について不断に学び事実を明らかにすることではなく、たとえうそでも人が好む記事を提供することだというのである。トウェイン流の毒舌だが、はて、今の日本でこれをただの作り話として笑えるかどうか
▼全分野の科学者を代表する日本学術会議が今月初め、福島原発事故による子どもたちへの放射線被ばく影響はないとの見解を発表したのだが、大々的に取り上げたマスコミはほとんどなかった。恐怖をあおり、被災者いじめを助長する報道は相変わらず多いのにである。その報告は「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」。6年かけ丹念に調査を重ねた結果という。「現在も今後も子どもへの影響なし」の事実は、本来ならトップニュースになっておかしくない
▼ところがマスコミの関心はいまだ福島の危険性にばかり偏っている。どうやら事実であっても、安心は大きく取り上げる価値などないようだ。人々が判断するための肝心な材料をあえて伝えないなら、うそを流布するのと同じだろう。そう言ったら、「ばかげたことを」と怒られるだろうか。