ドイツの考古学者シュリーマンのことは多くの人がご存じだろう。トロイアの遺跡を発掘したことで知られる偉人伝の常連だ
▼ただの物語にすぎないと考えられていたギリシャ神話のトロイアの遺跡が実在すると信じ、私財を投げ打って探し回った末にとうとう発見した人物である。幻を追い求める変人と笑われようが諦めなかった。だからこそ歴史を塗り替える宝物を発見できたに違いない。偉人たるゆえんである。こちらの宝物もアインシュタインの予言からおよそ100年、存在を疑われたこともあったが、昨年初めて観測に成功した。重力波のことである。3日、その初観測に貢献したマサチューセッツ工科大のレイナー・ワイス氏ら3人の米研究者にノーベル物理学賞が贈られた
▼重力波は時空のゆがみが光速で波のように宇宙を伝わる現象。もちろんシュリーマンのようにくわとすきを使って見つけたわけではない。観測装置「LIGO」で、250兆分の1㍉の時空のゆがみの差を計測したのだとか。この重力波、観測が困難なほど小さいものの、光や電波と違い何物にも遮られない特異な性質を持つ。つまり宇宙誕生のころの重力波を捕まえられれば、宇宙の歴史解明も夢ではなくなるわけだ
▼この初観測には日本人研究者も裏方として重要な役割を果たしたらしい。国内では大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」による研究も進む。宇宙にはまだ謎がたくさんある。これからは夢の実現に燃える日本の「変人」たちが銀河の底からざくざくと貴重な宝を掘り出すのだろう。楽しみに待ちたい。