弱きを助け強きをくじく、勧善懲悪の物語が好きな人は多いのでないか。テレビドラマ『水戸黄門』(TBS)が連綿と続いていることでもそれが分かる
▼社会生活でため込んだうっ屈をヒーローに託し吐き出すわけだ。ほとんどのヒーローは日の光の下で堂々と活躍するが、中には既存の秩序にあえて背を向け自分なりのルールで悪を撃つダークヒーローもいる。米国の映画『ダーティーハリー』はその典型だろう。従来通りの正攻法では事態を打開できないとの閉塞(へいそく)感が強まれば強まるほど、ダークヒーローへの期待が高まりやすい。米国にいささか破天荒なドナルド・トランプ大統領が誕生したのも、そんな感情を抱いていた国民がかなりの数いたからに違いない
▼そのトランプ大統領だが、最近は国内政策の転換だけに飽き足らず、国際間の取り決めも次々と反故にし始めている。地球温暖化対策のパリ協定離脱、ユネスコ脱退ときて、今度はイラン核合意を破棄する意思を鮮明にしたという。トランプ大統領は公平や協調を旨とするオバマ氏の政治遺産がよほど嫌いなようだ。それを洗い流すかのように、政策の継続性や国同士の約束など顧みぬ独断で「米国第一主義」実現にまい進している。そのダーティーハリー張りの猛進に熱狂する国民も少なくないらしい
▼ただ気になるのは北朝鮮問題である。現段階での圧力強化は妥当に思えるが果たしてこの先、交渉時機を適切に見定められるのかどうか。一戦交えて悪しきをくじき、勧善懲悪の大団円に持ち込めるほど事態は単純でない。