何が頭の中でスイッチを入れるのかは分からないのだが、突然、中学生だったころの恥ずかしい思い出がよみがえって一人で赤面することがある。調子に乗ってやらかした大失敗だったり、玉砕した片思いの告白だったり
▼動物王国で知られる畑正憲さんも同じだったらしい。『ムツゴロウの青春期』で、女生徒にラブレターを渡したときのぶっきら棒な態度や、教師に対して素直になれなかった昔を振り返っていた。畑さんによると、心の中で嵐が吹き荒れているようなこうした不安定さは、動物学的に意味のあることなのだという。成長ホルモンが機能し始めていると同時に、反抗しながら独立の準備をしている証しだというのである。それは人が育つ上で欠かせない「人生の宝」なのだとか
▼そんな「人生の宝」を一顧だにせず、土足で踏みにじったと考えざるを得ない。福井県池田町でことし3月、中2の男子生徒が自殺する原因を作った教師たちのことである。常軌を逸した厳しい叱責を繰り返していた。男子生徒は担任に、他の生徒も「身震いするくらい」怒鳴られ、副担任からも執拗(しつよう)に提出物の遅れなどを追及されていた。わが子の異変に気付いた親が改善を要請しても、行き過ぎを見かねた同僚が注意しても、担任らはかたくなに態度を変えなかったという
▼死より他に逃げる場所なしとまで思い詰めさせたそれを、教育と信じていたとしたらあまりに愚かである。担任らも中学時代、恥ずかしいことをたくさんしてきたろう。それでも今生きている。男子生徒は、もういないのだ。