子どものころ、ジュール・ヴェルヌのSF冒険小説『地底旅行』に胸を躍らせた人は多いのでないか。映画化された作品の方をご存じの人もいよう
▼大学教授が古文書に挟まっていた暗号の覚書を解読し地底世界の存在を知る。教授はそれを頼りにアイスランドの火口から地底に下り、やがて巨大な空洞に到達。特殊な電気現象で照らされたその空洞には大きなキノコの森があり、失われた古代生物が歩き回っていた。今も思い出すだけでわくわくした気分になる。未知のものへの憧れだろうか。つい最近、現実にもそんな気分を味わわせてくれたニュースがあった。エジプト・ギザのクフ王ピラミッドの内部に未知の大空間があることが分かったというのだ
▼形状は不明なものの、長さ30m以上の広い部屋の可能性もある。名古屋大や高エネルギー加速器研究機構などが加わる国際研究チームが発表した。2日付の英科学誌ネイチャーにも掲載されたそうだから、ピラミッドものによくある怪しい話ではあるまい。内部はもともと空洞だらけで謎の部屋ではないとの説もある。ただ、もし空洞から4500年前の遺物が手付かずの状態で見つかれば、歴史を塗り替える大発見になることは間違いない
▼使われたのは巨大建造物を透視できる「ミュオグラフィ」。素粒子ミューオンをX線のように働かせたものだ。日本が世界の先頭を走る技術で福島第1原発の廃炉調査にも採用されている。鍵となるのは暗号でなくミューオンの解読。日本の技術で世界最古の文明の謎に到達できたとしたら二重にうれしい。