本田技研工業の礎を築いた本田宗一郎と藤沢武夫は細かな話しをせずとも互いを理解していたという。理念を共有していたからこそのことである
▼その理念とは本田氏が言った「人間の生命に関することなんだから、その点にいちばん気を付けなければならない」(『経営に終わりはない』文春文庫)。根底にあるものが確固としてぶれないのだから、後は「あうんの呼吸」でそれぞれが自分の仕事をすればよかった。あうんの呼吸はそういったビジネスの世界だけでなく、いろいろな場面に登場する。外交の場も例外ではない。先週、APECに合わせて行われた日ロ首脳会談。安倍首相とプーチン大統領の間にもやはり、あうんの呼吸があったように見えた
▼プーチン氏は衆院選の大勝に祝意を述べた後、「これでわれわれの計画が実現できる」と喜び、首相も北方領土の共同経済活動具体化や平和条約締結に向け前進していく決意を語ったという。多くを語らずとも、分かり合えている雰囲気ではなかったか。いや日本が受け取るのは空手形ばかり。プーチン氏に手玉に取られているだけと冷ややかに見る向きもあろう。ただ、ロシア事情に詳しい評論家佐藤優氏は領土交渉が水面下で進んでいると見る
▼近著『ゼロからわかる「世界の読み方」』(新潮社)で、来年3月のロシア大統領選でプーチン氏が再選され権力基盤が固まれば事態は動くと分析していた。今回の首相再選が「あ」、来るロ大統領選が「うん」というわけだ。根底に平和と経済の理念を共有している限り呼吸が乱れることもない。