相撲の星取表で「黒星」は負けを意味する。慣用句で「頭の黒い鼠」といえば泥棒のことだ。言い合いが高じて「白黒をはっきりさせよう」となれば、それは正邪をはっきりさせようという宣言。もちろん黒が邪の方である
▼黒い色には決まって悪や汚れ、敗北といった否定的イメージが付きまとう。これは英語のブラックも同様である。ところが先の日曜日には、このブラックが日本中を大いに湧かせ、明るくした。ほかでもない。ことしのJRAグランプリ「第62回有馬記念」(G1)を制した「キタサンブラック」のことである。先行逃げ切りで圧倒的強さを見せつけての勝利だった。テレビの前で胸を熱くした人も多かったのでないか
▼まさに王者の走り。最終コーナーを回っても全くスピードが落ちず、ゴールに飛び込んだときには2着に1馬身半も差をつけていた。武豊騎手の手綱さばきもさえていたのだろう。ただそれもこの馬の類いまれな実力あってこそ。G1レース7冠と賞金王は伊達ではない。道産子にとって一層うれしいのは馬主が知内町出身の歌手北島三郎さんで、生産も日高町のヤナガワ牧場ということである。勝手な想像ではあるが、北海道にも大きな潜在力があるのを忘れるな―と励ますような走りだった。ブラックも能力は高いのになかなか結果を出せなかった馬である
▼ともあれブラックもこの有馬で引退。敗北の黒でなく大黒柱だった存在をわれわれは失う。人間も負けられない。自分こそが次のブラックに。本道を盛り上げてくれるそんな人物が来年現れるのを待ちたい。