▼寒中の今頃を表す季語に「冴ゆ」がある。「冴ゆる夜のこころの底にふるるもの」(久保田万太郎)のように使われる。りんとした雰囲気を持つ言葉だ。『ザ・俳句歳時記』(第三書館)によれば「寒さが極まって、澄んで透き徹るような感じ」という。この時期よく晴れた日など、さえた空気に気持ちまですっきり洗われたような思いのするときがある。胸のすくような出来事があった日ならなおさらだ。
▼大相撲初場所で大関琴奨菊が初優勝した。日本出身力士が賜杯を受け取ったのは実に10年ぶりのことだという。「出掛けるに身支度しかと冴ゆる朝」(稲畑汀子)。千秋楽の24日朝、琴奨菊関の家にもそんな風景があったのではないか。勝負がかかった一番では気合をみなぎらせ、大関豪栄道を土俵際で一気に突き落とした。技が決まった瞬間、テレビの前で歓声を上げた人も多かったに違いない。横綱3人に土をつけた取り組みもそうだったが、今場所は前へ出る相撲がさえ渡った。
▼インタビューで琴奨菊関は晴れやかにこう話した。「土俵上の勝ち負けより、自分が決めたことをやり切る気持ちでいた」。強みを生かすべく体づくりと技磨きを徹底したそうだ。外国人力士の健闘も見事で相撲界になくてはならぬが、やはり日本出身力士の活躍はうれしい。高校野球で強豪校の試合を楽しみながら、地元の応援にも熱が入るようなものか。地元といえば、北海道日本ハムファイターズが日本一に輝いたのも2006年のことだ。こちらも10年ぶりに、とならないか。