▼東洋大学の第29回「現代学生百人一首」入選作品100首が発表された。一つ一つ眺めていくと、ついぞ忘れていたみずみずしい思いが懐かしく胸をよぎる。「通学路寝ぐせが揺れるそよ風にノンフィクションの「今日」が始まる」(能代高2年佐藤瑞穂)。若いころは人生経験が少なく、台本を書くこともできない。きっと毎朝、新たな出発点に立ち、少し不安は感じながらも目を輝かせているのだろう。
▼今回は全国から約5万7000首の応募があったそうだ。戦後70年でもあり、平和への願いを歌に託した作品も多かったという。数首引いてみたい。「教科書をあと何ページめくったら本当の平和はおとずれるのか」(米沢興譲館高2年渋谷拓)。平和でなく戦争ばかり載っている教科書はもどかしいだろう。「七十年そんなに長い月日かな忘れていくのは罪ではないか」(都立府中高3年岩塚彩咲日)。忘れまいとする強い決意が戦争を遠ざける。そんな心の叫びが聞こえるようだ。
▼外国の地で犠牲になった人を思いやる歌もあった。「戦争は今年節目の七十年今も待ってる戦地の遺骨」(駒込学園駒込中1年高石幹太)。今フィリピンを公式訪問している天皇、皇后両陛下も同じ思いだろう。天皇陛下はアキノ大統領主催の晩さん会で先の大戦に触れ、日米間の戦闘によって多くの人の命が失われたことを「日本人が決して忘れてはならない」と語ったという。平和とは、友好とは…。日本人誰もが、「ノンフィクションの今日」を試されている気がしてならない。