▼スペインのバルセロナ市で着工から134年たった今も完成していないサグラダ・ファミリア贖罪(しょくざい)教会を知らない人はいないだろう。建築家アントニ・ガウディが構想した巨大聖堂だ。世界遺産でもある。図面や模型が少なく造形も複雑なため完成まで300年かかるといわれてきた。ところがその工期が大幅に短縮されているという。現在は2026年完成に向け工事が進んでいるそうだ。
▼秘密は潤沢な資金とITを使った建築技術にあるとのこと。先日、札幌市内で上映されたドキュメンタリー『創造と神秘のサグラダ・ファミリア』に教えられた。同教会には毎年、世界中から300万人を超える観光客が訪れるらしい。この拝観料収入が最先端技術の導入を可能にしたのである。ガウディの独特なデザインを実現するためにCADは建築用でなく航空機用を採用。石材はコンピューター制御の切削機で加工し、複雑な部材は3Dプリンターで形成するといった具合だ。
▼石造に見えて実はRC造というところも多いそう。一方で40年近く建築に携わってきた彫刻家の外尾悦郎さんは、石が自分を動かし像が生まれるのだと話していた。そんな職人の技が尊ばれる場でもあるのだ。外尾さんは『ガウディの伝言』(光文社新書)に、観光客が増えたのは1992年バルセロナ五輪からだったと記している。こちらもレガシー(遺産)になれるといいのだが、と願わずにいられない。東京五輪に向け、日本の新国立競技場はことしから本格的な設計に入った。