▼小学生の時分、遠足が近づくと、わくわくして布団に入ってもすぐに寝付けなかった。そんな人、多いのではないか。『こどもの詩』(文春新書)にこんな一編があった。「きょうは/えん足の/まえの日です/わたしは/うれしくて/たまらなくて/べんきょうを/わすれるぐらいに/はしゃぎました」(佐藤聡莉・小2)。わが家の子どもたちも同じだったから、今も昔も変わらないことであるらしい。
▼お母さんに持たせてもらう弁当、その日のためのおやつ、友達との遊び。考えるだけで楽しみが膨らんだ。子どもにとっては日常を離れて小さな旅に出る特別な日である。さて、こちらの旅関係者は、もうすぐ迎える特別な日をどんな思いで待っているのか。今月26日の北海道新幹線開業まであと10日と迫った。乗客はわくわくしていようが、JR北海道や沿線自治体などはそれだけであるまい。緊張感が高まってもいよう。トラブルはないか、円滑に運行できるか、当日の天候は…。
▼3月に入り、テレビで特別番組を見る機会が増えた。スーパーにはPR商品が並び、開業ムードを盛り上げている。及ばずながら筆者も、H5系車両が描かれた缶ビールを飲んで一役買っている、つもり。萩原朔太郎の詩「旅上」の一節を思い出す。「汽車が山道をゆくとき/みづいろの窓によりかかりて/われひとりうれしきことをおもはむ」(新潮文庫)。最も大切にすべきは乗客だろう。その思いに応えるためにも、特別な日に混乱などないよう準備万端怠りなし、と願いたい。