日常ありがちな出来事だからだろう。テレビドラマや小説でこんな場面が時折出てくる。聞けば誰もが一つや二つ思い出す話があるのではないか
▼金遣いが荒く乱暴者のため近所で嫌われ者の息子がいる。普段は家に寄り付きもしないのに、ある日ふらりと帰ってきた。態度が妙にしおらしい。愛想もいいし口から出る言葉も穏やか。両親があっけにとられていると息子が言う。「今すぐ金が必要だ。貸してほしい」。困ったときだけ改心したかのような演技をしているわけ。「今度こそ本気かもしれない。貸してあげよう」と言う母親に、父親が「だまされるな。いつものうそっ八だ」と返して夫婦げんかが始まるのもお決まりの展開である
▼そんな安っぽいドラマを、緊張高まる現実の国際舞台で見せられることになろうとは思わなかった。平壌で6日開かれた韓国と北朝鮮との会談の件である。そこでの金正恩朝鮮労働党委員長のにこやかな顔といったら。ドラ息子以上の豹変(ひょうへん)ぶりではないか。席上、北朝鮮は自ら朝鮮半島非核化の意志を明らかにしたという。追加の核実験や弾道ミサイルの発射は控え、米国と対話する用意があることも表明したそうだ
▼耳に心地良い内容ばかりで韓国は大喜び、中国とロシアも歓迎している。一方で日本と米国は懐疑的といったところ。これまで何度も茶番が繰り返され、毎度腹立たしい思いをさせられてきたのだから当然である。新たな劇が始まったからには当面様子見するほかない。ただ今回も三文芝居の気配が濃厚だ。主役もすぐに馬脚を現そう。