▼精神科の診療に連れてこられた子どもを、「見なし患者」と呼ぶことがあるそうだ。米国の心理療法医M・スコット・ペックの『平気でうそをつく人たち』(草思社)に教えられた。病気の原因が子ども自身にではなく、子どもを患者と見なし、そう「ラベル」を貼った両親や家族、学校、社会の方にある場合が多いからだという。患者として本当に治療が必要なのは、子どもでなく周りの大人たちらしい。
▼親の虐待から逃れようと、自ら相模原市児童相談所に保護を求めていた中学2年の男子生徒が訴えを見送られ続け、ついには自殺した事件の報に触れ、この著書を思い出した。男子生徒は虐待に耐えかね、家から飛び出したことが何度もあったそうだ。悲痛な思いはどこにも届かず、とうとう行き場を失ってしまったのだろう。2014年11月に自殺を図り、意識不明の状態になっていたが、先月の末に亡くなったそうだ。どれだけ悩んだことだろうか。その心中を思うと胸が詰まる。
▼関係者の発言をニュースで見た。同児童相談所の所長は22日の記者会見で、対応に間違いはなかったと繰り返した。両親はインタビューに答えて、しつけのつもりだったと語っていた。学校も警察も事態を把握していた。なのに、誰も男子生徒を救わなかった。この周りの大人たちの、責任感の希薄さはどうしたことだろう。問題を解決したいのでなく、目の前の問題を無くしたいだけだったのでないか。男子生徒の自殺の原因は、病んだ大人たちの中にあったといわれても仕方ない。