▼ホセ・ムヒカ前ウルグアイ大統領がきのうまで日本に滞在していた。ムヒカ氏といえば大統領在任中、給料の9割を寄付していたことでよく知られる。「カネのために政治家になったわけじゃない」(『悪役』汐文社)と語っていたそうだ。氏の人柄を聞いたとき、やはり清貧の士だった「財界総理」土光敏夫元経団連会長を思い出した。土光さんも木の古い家でつましく暮らす、お金にきれいな人だった。
▼言行一致の人には説得力があるということだろう。そのムヒカ氏が10日、広島を訪れた。FNNが伝えていたが、原爆ドームや平和記念資料館を見学した氏は「日本に来て広島を訪問しないことは、日本の歴史に対する冒涜(ぼうとく)だ」と話したそうだ。この言葉には胸を熱くさせられた。被爆という悲惨な事実への深い理解に敬服するほかない。あらためて考えさせられもしたのである。核兵器保有国首脳はこれまで広島を、冒涜とは言わないまでも、軽視してきたのでないか。
▼そういう意味では画期的な出来事と言っていい。G7外相会合の参加閣僚が11日、広島でそろって原爆死没者を慰霊したのだ。核兵器保有国の閣僚が訪れるのは初めてのこと。会合では核軍縮と不拡散に向け「広島宣言」も採択。これですぐ事態が動くわけではないが、「冒涜」が「重視」に変わっただけでも前進だ。ムヒカ氏は常々、世界の前に立ちはだかる危機の原因は政治にあると指摘している。核兵器もそうだろう。いつまで張り合うのか。核兵器こそつましくありたいもの。