学校には少しおかしなところがある、と思うことが大人になってから度々あった。絵本作家五味太郎さんもそうだったらしい。『さらに・大人問題』(講談社)でこんな話を紹介している
▼子どもの事件が相次いだことを受け、ある中学校が悩み相談室を設置した。ところが誰も相談に来ない。学校はせっかく作ったのだからと「不良」の生徒を強制的に呼び付け指導を開始。県には設置の効果ありと報告したという。五味さんはこう嘆く。「気の毒なのは、そんなキャッチバーみたいなカウンセリングルームに引っかかってしまった生徒たちです。『せっかくですが、ご遠慮します』とは言えない立場なので、ただ大人たちにもてあそばれてしまいます」
▼それと本質が変わらないように見えるのは筆者だけだろうか。前川喜平前文部科学事務次官が名古屋市立中の全校一斉総合授業で講演した一件のことである。大人相手の講演なら誰に気兼ねすることもないが、授業では生徒が遠慮したくともそうはいかない。前川氏といえば文科省の組織的天下りに主導的役割を果たし、国家公務員法違反で同省を追われた人物である。昔の話ではない。ほんの1年前のことなのだ
▼学ぶべき価値ある人生を歩んできた人は世に数多くいよう。なのになぜよりにもよって法を破り、社会的公平を踏みにじった前川氏を生徒の前で語らせねばならなかったのか。一人の親として理解に苦しむ。今回の件では政治家や文科省の教育現場への介入も懸念されているがもっともだろう。ただその前に、かの現場の鈍感さを深く憂う。