▼洋楽を観賞しているとき、ふとした瞬間から外国語なのに日本語で歌っているようにしか聞こえなくなることがある。そんな錯誤を逆に楽しんでしまおうというのがテレビ朝日の深夜番組「タモリ倶楽部」の「空耳アワー」だ。視聴者が見つけてきた曲を毎回紹介している。例えばマイケル・ジャクソンの「スムース・クリミナル」は英語の曲だが、「パン!茶!宿直」と聞こえる部分があるといった具合。
▼同音の言葉の意味を置き換える言葉遊びの一つだろう。「マドンナ」を「まあ、どんな」にする類いである。きょうは「ことばの日」。それでこんなことを思い出したというわけ。ちなみにことばの日も「五、十八」の語呂合わせだ。日本人は昔からこの言葉遊びが好きだったようで、川柳や謎掛け、しりとりはもとより、「着たきり雀」「恐れ入谷の鬼子母神」といった地口もお手のもの。平仮名を1回ずつ全て使い、意味の通る文にした「いろは歌」は遊びの傑作と言ってもいい。
▼言葉遊びの名手といえば作家井上ひさしもその一人。英文学者高橋康也が共にバリ旅行をした折のことを随筆に書いている。遅々として進まないバスに皆がいら立ってきたとき井上氏はこう言ったそうだ。「こういうのをセンチメートル・ジャーニーって言うんですね」。一気に場が和んだらしい。昨今は揚げ足取りだ、言葉狩りだ、暴言だ、と言葉の周りがどうにも窮屈だ。井上氏流の粋な一言がほしいものだが遊びの伝統やいまいずこ。これでは「幸福」も「降伏」するしかない。