▼その人はある日、こんな質問を受けたそうだ。どうしてあなたは、やること全て上手に成功させられるのか―。答えは「母親が私に言ったからさ。やるならちゃんとやれってね」。その人とは、20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエである。一番弟子ともいえるヴォジャンスキーが著書『ル・コルビュジエの手』(中央公論美術出版)に記していた。陽気な楽天家で、冗談を言うのが好きだったらしい。
▼そのコルビュジエの設計した上野の国立西洋美術館が世界遺産になるらしい。ユネスコの諮問機関「国際記念物遺跡会議」が、同美術館を含む7カ国17資産で構成される「ル・コルビュジエの建築作品」を登録するよう勧告したそうだ。名作と名高いロンシャンの礼拝堂も入っている。「地球規模で半世紀以上、建築技術を近代化させ現代社会、人間に回答を示してきた」価値が認められたとのこと。日本にも影響を受けた建築家は多いから、関係者にとっては喜びもひとしおだろう。
▼木造建築技術を究めてきた国柄もあってのことか、「ちゃんとやる」ことをしっかり受け継いだ日本の後進たちの活躍は目覚ましい。建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞に、1979年の創設以来6組が輝いている。受賞数は米国に次ぐ第2位だ。コルビュジエは常に自分を厳しく磨き、生きている限り新たな建築を追求した人だったという。泉下にいても、自分の過去の作品が遺産になることより、後輩たちが日々創造する建築を見ることに喜びを感じているかもしれない。