▼大統領のところに、予告もなく大勢の子どもたちが面会にやって来た。小松左京にそんな書き出しで始まるショートショート「見すてられた人々」(剄文社)がある。表敬訪問ではなかった。子どもたちは最後通告を突き付けるため来たのだ。「今すぐ、世界中のおとなが集まって、本当に世界をよくするための話し合いをひらいてください」。大統領は「大切なことだ」と口にするが何もしようとしない。
▼子どもたちはどうしたか。ついに実力行使に出るのである。世界から姿を消したのだ。残されたのは老いゆく人々ばかり。今の日本の事情を考えれば、こんなSFも現実と重なるようでヒヤリとする。きのうに続き子どもの話題だが、きょうは少しばかり明るい出来事について触れたい。2015年の合計特殊出生率が1・46に上がったことである。厚労省が23日発表した人口動態推計で明らかにした。1・45を超えるのは、1994年以来21年ぶりだというからうれしいではないか。
▼驚くのは前年と同率の岡山を除き、46都道府県全てで出生率が上昇していることだ。まさか自動車会社の燃費偽装に倣って、厚労省がこっそり鉛筆をなめたわけでもあるまい。ここ数年の経済好転や失業率低下が良い方向に働いたということだろう。ただ、安心はできない。経済を回復すると同時に、子どもが暮らしやすい社会に変えていかねば。大人の都合ばかり押し付けていては、子どもから先の小説の結末と同じこんな言葉を言われかねない。「こんな世界に、住むのはいやだ」