▼米国のミステリー小説作家ウィリアム・K・クルーガーが人気シリーズの一作で、主人公の元保安官コークにこう語らせていた。「あまりにも多くの人々が、銃は殺すための道具だということがちゃんとわかっていない」(『血の咆哮』講談社文庫)。銃は「つながれたライオンのようなもの」だとも言っている。つないでいる鎖は思った以上に弱く、暴れだしたら人の手になど負えないということだろう。
▼米フロリダ州オーランドで、再び銃による悲惨な事件が起きた。29歳の男が12日、ナイトクラブに押し入って銃を乱射し、49人を殺害したのである。銃犯罪の多い米国でも、これだけ犠牲者が出た事件は過去例がないそうだ。いかに銃社会とはいえあまりに度を超していよう。まるで紛争地の出来事ではないか。男は特別危険なライオンを用意していたようだ。軍用の大型ライフル銃である。日本人には想像もつかないことだが、そんな兵器でも店先で簡単に手に入るのが現実らしい。
▼容疑者は過激派組織「イスラム国」の信奉者だったとのこと。同性愛者に憎悪の念を持っていたとも聞く。過激な思想でゆがんだ正義と強力な銃。どちらかだけでは暴発しなかったろうが、不幸なことに今の米国では両方とも大盤振る舞いである。銃所持が建国からの伝統である以上、規制強化に複雑な思いがあるのも当然だ。ただグローバル社会の旗手ともあろう国の人々が、「人を殺すための道具」を後生大事に抱える世界の非常識を、いつまでも放っておくのはいかがなものか。