▼常に現地に出向き、自分の目で実情を見ながら発展途上国の貧困解消に取り組んできた元世界銀行副総裁の西水美恵子さんは、「国づくりは人づくり」との信念を持っている。『国をつくるという仕事』(英治出版)に記していた。人づくりの要は「人間誰にでもあるリーダーシップ精神を引き出し、開花することに尽きる」。それを引き出すのが、西水さんのように外から来た人の仕事である場合も多い。
▼今回、バングラデシュでテロの犠牲になった日本人男女7人も、専門知識と技術を生かして地域の発展に力を尽くしながら、現地で新たなリーダーとなる人を育てていたのだろう。東南アジアへの貢献を自分の夢とする崇高な精神の持ち主たちだったそうだ。残念でならない。心よりご冥福をお祈りする。同国は現在、急成長する経済にインフラが追い付いていない状況と聞く。インフラはいわば暮らしの土台だが、それを計画的に整備する知識も技術も足りていないのが実態らしい。
▼彼らはJICAが支援するインフラプロジェクトに、建設コンサルタント3社から派遣されていた。困っている国の役に立ちたいとあえて異国の地に赴いたそうだ。テロはそんな志を無残に打ち砕いた。イスラム過激派組織「IS」が犯行声明を出したが、実行したのは地元のグループだったという。テロリストは「国づくりは人殺し」とでもいうように未来の可能性をつぶし続ける。人をつくり、インフラを造る。そんな地道で真面目な努力なしに、国づくりなどできるわけがない。