▼室生犀星は川を愛する人だったという。泳げないため川遊びをするというより、もっぱら散歩などで風情を楽しんでいたようだ。そんな犀星が一度だけ子どもたちと川遊びをしたことがある。長女の朝子さんが随筆に書き留めていた。川で「石のおうち」を作っていると、犀星が「面白そうだね、わしも一緒にしよう」と川に降りて来たそうだ。普段子どもと遊ばない人だけに、とてもうれしかったらしい。
▼親として、子どもとして、そんな川で遊んだ懐かしい記憶を持つ人も多いのではないか。きょう7日は「川の日」である。七夕の天の川や水と親しみやすい季節にちなんで、国交省が1996年に定めた。川に思いをはせるにはちょうどいい日だろう。ことしで20年だが、新たに国民の祝日となる「山の日」(8月11日)と違って、祝日化の話はあまり聞こえてこない。とはいえ「山」と問えば「川」と返すのが合言葉の定番だから、次の有力な候補として挙がっているのかもしれぬ。
▼西日本では大雨による濁流、関東圏では降雨不足による渇水と、最近は険しい表情の川ばかり話題になる。そうでなくとも川に背を向けた生活が当たり前になっているというのに、残念なことだ。犀星にこんな詩がある。「うつくしき川は流れたり/そのほとりに我は住みぬ/春は春、なつはなつの/花つける堤に座りて/こまやけき本のなさけと愛とを知りぬ」(「犀川」)。本道の暑さもいよいよ本番だ。時には川で夕涼みをするのもいい。犀星のように愛を見つけられる、かも。