登山愛好家のバイブル的存在、作家深田久弥の『日本百名山』(新潮文庫)では「阿寒岳」と一つの山にまとめられているが、ご存じの通りこれは雄阿寒と雌阿寒両岳のことである
▼りりしくそびえる雄阿寒に対し優美に裾野を広げる雌阿寒。実に好対照だ。深田氏は雄の方に肩入れしているようで、「阿寒湖に活を入れているのは、この雄阿寒岳である」と書く。いやいやどうして雌阿寒だって素晴らしい山である。一気に高度を稼ぎ頂上に至る雄阿寒と違い、雌阿寒は高山植物をめでたり活火山特有の荒々しい風景を眺めたりと道中変化に富む。歩いて楽しい山なのである。筆者も釧路に勤務していたころ、年に1、2度必ず雌阿寒に登ったものだ
▼そのことを思い出したのは、足寄側登山口のすぐ横にある「山の宿 野中温泉」の元経営者・野中正造さんが存命中の世界最高齢男性としてギネス世界記録に認定されたからである。現在112歳という。10日に、自宅でもあるその旅館で公式認定証が渡された。テレビで拝見したが、車いすに乗っていたものの大変にお元気そう。足寄町のHPによると今は長男の妻と孫と一緒に暮らし、大好きな相撲中継を楽しみながらのんびりすごしているとのこと
▼大自然の中でのゆったりした生活は心身にとって理想的な環境だろう。野中温泉ならではの加水も加温もしない源泉かけ流しの濃厚な硫黄泉もまた、長寿に一役買っているのでないか。筆者も気持ちよく雌阿寒に登った後、何度か温泉に漬からせてもらった。たぶん幾らかは寿命が伸びているはずである。