▼リーダーシップや国際的な協力関係について教えている米国のマーク・ガーゾン氏は、中国の大学での講義中、学生にこう質問されたそうだ。「私たちは嫌われているの?」(『世界で生きる力』英治出版)。北京五輪の開催を目前に控え、中国政府のチベット僧弾圧が世界から批判を浴びているときだったらしい。学生は報道で目にする諸外国の中国への風当たりの強さに、疑問と不満を持っていたのだ。
▼学生としてはそうとしか考えられなかったのだろう。さらにこう質問を重ねた。「私たちが発展しているから怒っているのでしょうか?」。もちろん問題は別のところにある。情報が十分でない学生なら分からなくても仕方ないが、国際社会の一員である現在の中国政府まで、何も聞かないふりをするのはいただけない。主権を主張していた南シナ海の「九段線」がオランダ・ハーグの仲裁裁判所によって、「法的根拠なし」と判決を下されたことに受け入れ拒否を表明した件である。
▼中国も批准している国連海洋法条約にのっとった正式な判断を認めないというのだから、各国から批判されるのも当然だ。かくれんぼをしていて鬼に見つかってしまったとき、「見つける方が間違っている」と文句をつけるようなもの。仲間に入れてもらえなくなるだけだろう。ガーゾン氏は学生たちに「多様な意見によって、みなさんはより賢くなり、この国はより安全になる」と伝えたそうだ。学生たちからは強い賛同の声が上がったらしい。中国政府には耳の痛い言葉でないか。