▼天下人豊臣秀吉の甥に当たる関白豊臣秀次は、秀吉に謀反の疑いありとされて切腹を命じられ、京の三条河原でさらし首になった。世にいう秀次事件である。このとき、子どもや妻ら一族も同罪として全て処刑されたという。古代から封建制度の下で行われてきた、犯人の親族に連帯責任を負わせる「縁座」が適用されたのだ。ただこの制度、筋が通らぬと評判が悪く、江戸中期頃には既に制限されていた。
▼よもやこの平成の時代に、公序良俗に反するとして昔打ち捨てられたその「縁座」を見ることになろうとは思わなかった。自民党東京都連が今知事選を戦うに当たって所属議員らに出した文書「党紀の保持について」のことである。都民に限らず、あきれて開いた口がふさがらない人も多かったのでは。脅しまがいのこんな一文があったからだ。「各級議員(親族等含む)が、非推薦の候補を応援した場合は、党則並びに都連規約、賞罰規定に基づき、除名等の処分の対象となります」
▼処分をちらつかせて親族まで力づくで押さえつけようとの考え。おそらく自民党都連に熱烈な中世時代劇の愛好家がいて、「ええい、そのような不届き者は、一族郎党全て追放してしまえ」となったのでないか、と勝手に想像している。この影響も少しあったのかどうか、推薦した候補は敗れ、小池百合子氏が当選した。きのう、新知事が初登庁し小池都政が始まった。さて問題は都議会だ。日本中が注目していよう。まさか、悪代官が暗躍する古くさい時代劇にはならないと思うが。