▼温泉教授として知られる洞爺湖町出身の松田忠徳氏は、身も心も癒やし「深い精神的な安らぎと心地よさ」をもたらしてくれる日本の温泉の効用を、「温泉力」と呼んでいるそうだ。『黒川温泉 観光経営講座』(光文社新書)に教えられた。日本人なら「温泉力」の存在に疑いを持つ人などいないだろう。文字通り肌身で理解している。特に冬、雪を見ながら露天風呂に漬かるあの気持ち良さといったら。
▼きょうはことしから国民の祝日となった「山の日」である。「山に親しむ機会を得て、山の恩恵に感謝する」日だという。山に親しむのはもちろんだが、恩恵といえば温泉を忘れるわけにはいかぬと思った次第。さかのぼれば古事記や日本書紀にまで湯治の記述があるというから、日本人の温泉好きは歴史的にも裏付けがある。文学の舞台に温泉が多く使われているのも当然のこと。夏目漱石もそんな愛好家の一人だったようで、「二百十日」など、作品にはたびたび温泉が出てくる。
▼温泉といえば北海道を抜きには語れない。環境省の2015年版環境統計集によると、温泉地数は北海道が249カ所で第1位。その他にも一般には知られていない自然の中の野天風呂がどれだけあることか。筆者もかつてヌプントムラウシ温泉で河原を掘って湯船をこしらえ、野趣あふれる入浴を堪能したことがあった。そうした山の恵みが身近にあるのも北海道のいいところ。「温泉力」が相当高いということだろう。さて盆も何かと忙しい。まずは温泉に力をもらうとしようか。