ありきたりの表現だが「激動の1年」という言葉はまさにこの年のためにあるのだろう。今から約30年前の1989年のことである
▼主な出来事を振り返ってみると、6月、中国で民主化運動を武力弾圧する天安門事件が発生。11月、東西両陣営分断の象徴となってきたベルリンの壁が崩壊。そして12月、マルタで会談したジョージ・ブッシュ米大統領とミハイル・ゴルバチョフソ連最高会議議長が冷戦の終結を宣言。折しも日本経済はバブル景気が最高潮に達し、海外では共産圏を中心に人々が民主化と自由主義を求め旧体制を強く揺さぶっていた。昭和天皇が崩御し、今上天皇が即位したのも世界がそんな大きな曲がり角に立つ年の1月だった
▼陛下も新たな風を身に受けながらの船出だったはずである。その風に押されたのかもしれない。先の大戦の慰霊に力を注がれたこと、平和の時代における象徴の意味を行動で示されたこと、多くの仕事の中でもこの二つには常に陛下の確固たる信念を感じさせられた。この平成もあと1年で幕を閉じ、新たな時代に席を譲る。これが中高年の国民にとって感慨深いのは、天皇皇后両陛下の親しみやすいお人柄だけが理由ではあるまい。少々おこがましいが仲間意識のようなものがあるのでないか。現在60歳前後であれば、その職業生活と陛下の歩みは同時進行だったわけだからである。デフレや大きな災害も一緒に乗り越えてきた
▼陛下はことし8月にも本道の利尻島への訪問を検討されているという。ぜひ実現し、激動とは無縁にのんびり過ごしていただきたい。