▼第2次世界大戦が終わって71年が過ぎた。ほぼ人の一生分に当たる年月である。決して短い間とはいえない。ただし一つの問題を解決するには全く十分でなかったようだ。「柘榴の実ざくりと割れて忘却かそれとも風化北方領土」(沼野勇)。以前目にした歌だが、この71年という年月は北方領土問題を、「忘れる」から「関心なし」へ、そして「知らない」に変えてしまった。時の流れとは無情なものだ。
▼近年、ロシアは外交パイプが細るのをいいことに、実効支配を強めてきた。問題が風化せぬよう大声を出しているのは新党大地代表の鈴木宗男氏だけのような気さえしたものだ。まあ、もともと声の大きな人だが。そんな中で届いた朗報といえるのではないか。安倍晋三首相が2日、ウラジオストクでプーチン大統領と会い、ことし12月に日本で首脳会談を開くことが決まったという。招く側が言うことでないのは承知しているが、まさかプーチン氏が手土産なしで来るとも思えない。
▼日ロ双方にはそれぞれ事情がある。ロシアは経済制裁の影響から抜け出したい。日本は中国をけん制したい。もちろん裏表なしに経済強力のメリットも大きいはず。日本での安倍・プーチン会談は、国民の北方領土に対する意識を、「知らない」から再び「知っている」に、そして「関心がある」「忘れず解決しなければならない」へと変えていくきっかけになろう。現地で見ると北方領土は驚くほど近い。領土返還のためには実際の距離以上に国民の気持ちを四島に近付けなければ。