▼素朴だけれど心に深く染み入る作品を数多く残した童謡詩人金子みすゞの一編に、「海とかもめ」があるのをご存じの人もいるのではないか。こう始まる。「海は青いとおもってた、かもめは白いと思ってた。/だのに、今見る、この海も、かもめの翅も、ねずみ色。/みな知ってるとおもってた、だけどもそれはうそでした」。くもりのない真っすぐな目でいつもの風景を見ていてふと気付いたのだろう。
▼みすゞほどの感性はないが、リオ・パラリンピックで躍動する選手たちの姿をテレビで見ていて、障害者と社会的弱者を「=」(イコール)で結んでいた自分の思い込みが、うそだったことに気付かされた。スポーツ用の義足を装着してトラックを走り抜ける陸上競技、相手が見えないまま戦う柔道、車いすでコートを駆け回るテニスやバスケットボール…。障害の程度によって細かくクラス分けされた種目の中で、選手たちは力を尽くし輝いていた。そこに弱者の影はみじんもない。
▼競技後のインタビューで、結果が満足のいくものであってもそうでなくても選手たちは必ず同じことを口にした。「諦めなければ夢はかなう」「頑張れば可能性は広げられる」。その言葉は障害のある人にもない人にも等しく向けられていたに違いない。相模原市の「津久井やまゆり園」が建て替えられることになったそうだ。入所者は新たな施設でまたそれぞれのパラリンピックを戦うことができるだろう。事件を起こした元職員も自らを呪縛するうそに、早く気付くといいのだが。