▼現代生活に欠かせないものは数々あれど、コンビニエンス・ストア、通称コンビニも間違いなく、その一つに上がるだろう。コーヒー、おやつ、雑誌、日用品はもとより、銀行、公共料金支払い、荷送りまで。行かない日の方が珍しいという人も多いのではないか。1920年代に米国で始まった店舗形態だそうだが、輸入されてからは細部にこだわる日本人によって洗練され、独自の発展を遂げたらしい。
▼本道で主だったところといえばセイコーマートとセブンイレブン、ローソン、ファミリーマート系だろう。商品構成はどこもほぼ同じだが、人によって好みが分かれるのは面白い。この話題を持ち出したのは、先頃決まった第155回芥川賞の『コンビニ人間』を読んだからである。著者の村田沙耶香さん自身の長年にわたるアルバイト経験が基になっているとのこと。小説家になってからもコンビニ店員は続けているらしい。その理由は「大好きだから」。一風変わった人のようだ。
▼主人公は小さいころから他の人との感覚のずれを自覚していた女性である。彼女はコンビニのマニュアルという鋳型にはまることで初めて「普通の人」として社会に溶け込むことができた。ところが、その仮面も次第に周りの人に見透かされて…。考えてみれば、人は誰しも仕事や立場の鋳型にはまってやっと社会人たりえているのでないか。市議会議員の仮面の下から金の亡者の顔が出てきた富山市の例も最近見た。「コンビニ人間」だからと笑えない。さてあなたは何人間だろう。