すぐもうかる話があるのに、手間と時間をかけて製品を作ったり人を育てたりするのは無駄なこと。程度の差こそあれ、そんな会社が増えているのは事実だろう
▼特に米国でその傾向が強いようだ。昨年、がんやエイズを治療する医薬品の権利を買い取り、1錠当たりの価格を13㌦から750㌦につり上げた会社が話題になった。医薬品業界だけではない。金融やITをはじめ、あらゆる分野で同じことが起きている。株主は短期利益ばかり追及し、達成できない経営者は首を切られる。目先のことにしか関心のない経営者が増えるのも当然である
▼日本でもその風潮が広がっているようだ。会社が採用に当たり即戦力を求めるようになったのもその表れでないか。効率よく利益を上げるためには、人を一から育てるコストも余計というわけ。どこかゆがんでいよう。そんな風潮の中である。性急な成果を狙わず基礎研究に励み、ついにノーベル賞を受賞したとの報に、胸のすく思いをした人も少なくなかったはず。ことしの生理学・医学賞に決まった東京工業大の大隅良典栄誉教授である。生命維持の根源的仕組み「オートファジー」を解明したそうだ。日本人のノーベル賞受賞が続く。いずれも長年の地道な研究が認められてのこと
▼教授は記者会見で、「『役に立つ』という言葉が社会をダメにしている」と語っていた。数年後に事業化できることにばかり目が向いているが、「『本当に役に立つ』ことは10年後、20年後、100年後に分かるのかもしれない」。科学分野だけのことだろうか。