考えた通りにはならないと半ば思いながらも、わが子に夢を託した名前を付けるのが親の情というものだろう。それをだいぶ誇張したのが落語の「寿限無」である
▼子どもが生まれて大喜びの熊さんは、長生きできそうな言葉を全部つなげて一つの名前にしてしまった。これがとにかく長い。「寿限無寿限無、五劫のすりきれ、海砂利水魚の水行末、雲来末、風来末、食う寝るところに住むところ…」。まだまだ続く。国内製鉄業最大手「新日鉄住金」が「日本製鉄」に社名変更するとのきのう付け新聞記事を読んでいて、その社名変遷の複雑で長い歴史が「寿限無」と重なった次第
▼経緯はこうだったという。戦前、官営八幡製鉄所や三菱製鉄など1所7社が国策により合同し日本製鉄が誕生。ところが戦後の財閥解体で分割され今度は4社に。1970年にこのうち2社が合併して新日本製鉄を設立。その後12年に住友金属工業と合併して現在の新日鉄住金になった。そして来年4月からはまた日本製鉄である。「八幡、三菱、日本製鉄、富士、新日鉄,住友金属」。並ぶのは時代を映す大きな名前ばかり。それを変えてこざるを得なかったのは、戦後まで国策に翻弄(ほんろう)され、時代が下っては厳しい国際競争のただ中に放り出された製鉄業の苦難の歴史ゆえだろう
▼新社名の「日本製鉄(にっぽんせいてつ)」は日本発祥を明確に打ち出し、海外で高品質と定評のある日本ブランドを一層強化していく狙いがあるという。落語の「寿限無」は健康で利発な子に育った。「日本製鉄」もそうだといい。