聖人君子になりたいわけでなくとも、まともに社会生活を営もうと思えば道徳の観念は必要だろう。「鉄は熱いうちに打て」とばかり、義務教育に道徳の授業もできた
▼文部科学省が告示する小学校の学習指導要領を見ると、低学年向けにはこんなことが書いてある。「よいことと悪いこととの区別をし、よいと思うことを進んで行うこと」「うそをついたりごまかしたりしないで、素直に伸び伸びと生活すること」。中学年向けには「過ちは素直に改め正直に明るい心で生活すること」とある。道徳は実践してこそだが、最近あったこのことには少なからず考えさせられた
▼稲田朋美防衛相と菅義偉官房長官の事務所が白紙の領収書をもらい、自ら金額を書き込み政治資金収支報告書に添付していた件である。国会で不適切との指摘を受けた両氏は「法的には問題ない」とかわし、高市早苗総務相も同じ見解を示した。永田町では政治資金パーティーで会費を支払う際、白紙の領収書をもらうのが慣例なのだそう。自分で金額を入れるのでは領収書という名の錬金術になりかねない。その事実自体にも驚くが、一層重大な問題は国権の最高機関で、明らかにおかしなことを「問題ない」と答弁する道徳感覚である
▼子どもたちは国会を「よいことと悪いこととの区別」がつき、「うそをついたりごまかしたり」せず、「過ちは素直に改め」る大人たちが集まる場だと思っているだろう。実は都合の悪いことはごまかし、過ちも認めようとしない政治家が多いなら、まず政治家向けの学習指導要領がいる。