この歌を聞くと若いころの記憶が呼び覚まされるという人も少なくないに違いない。ザ・フォーク・クルセダーズで一世を風靡(ふうび)した北山修さんの作詞、加藤和彦さんの作曲による『あの素晴しい愛をもう一度』のことである
▼「命かけてと誓った日から すてきな思い出 残してきたのに あの時 同じ花を見て 美しいと言った二人の 心と心が今はもう通わない」。旋律は美しいが悲しい恋の歌だった。実は26日にロシアで行われた安倍首相とプーチン大統領との首脳会談の経過を見て、頭の中でその一節が響いた次第。二人の心と心もどうやら今はもう通わないようだ。2年前には首相の故郷山口にプーチン氏を招いて親しく話をし、去年はAPECに合わせた会談で北方領土の共同経済活動や平和条約締結について前向きな雰囲気を共有した
▼二人で素敵な思い出を残してきたはずなのだがさて、どうしたことだろう。今回は領土問題にせよ経済協力にせよ目立って進展した事案はほとんどない。何だかプーチン氏の反応が鈍いのである。共同経済活動のための現地調査団派遣や航空機による北方領土墓参の実施といった実務的な合意はあった。ただ、それ以上踏み込むと途端にはぐらかされる
▼米国と緊密に連携する日本と距離を置きたかったのか、はたまた外交で点数を稼ぎにきた首相の足元を見たのか。首相にしてみればあの素晴らしい愛をもう一度との思いを秘めての訪ロだったろう。どうやら3月の大統領選で大勝利を収めたプーチン氏には今、日本の愛はさほど必要でないらしい。