キツネとタヌキは世に長く生きると不思議な力を持つようになる、との言い伝えが古くからあるのはご存じだろう
▼『日本妖怪大事典』(水木しげる、角川文庫)には、キツネは「人や物に化けたり、幻術でたぶらかしたり、あるいは姿を見せずに人に取り憑いたり」するとある。タヌキもまた同じ能力の持ち主。似た者同士だからなのか時に化け比べをしたり、どちらが上手に人をだませるか競争したりするようだ。米国の大統領候補だった人物を動物に例えるのは失礼と承知した上で言わせてもらえば、今回の大統領選がキツネとタヌキの化かし合いのように見えて仕方なかったのである。まあ、どちらがキツネでタヌキなのかは想像にお任せするが、スキャンダルの暴き合いに悪態合戦だ。あれでは米国民もさぞや肩身が狭かったに違いない
▼きのう、その「泥仕合」にとうとう決着がついた。8日行われた投票で、共和党のドナルド・トランプ氏が勝利したのである。米国第45代トランプ大統領が誕生する。多分今ごろ、わが国の政財界関係者はこぞって頭を抱えているのではないか。何せ自国優先主義を臆面もなく打ち出している人物なのだ。安全保障面では他国の「ただ乗り」をやり玉に挙げ、TPPについては米国経済を衰退させるだけの愚策と切り捨てる。イスラム教信者や移民の拒絶に加え、エリート層への攻撃も激しい
▼一方で「強いアメリカ」を実現するための具体策は、一向に見えてこないのである。どうも化かされているような気がしてならない。正体が何かは分からないが。