JR北海道の路線危機

2016年11月22日 09時50分

 岡山県出身の小説家で詩人の木山捷平に「旅吟」の詩があるのをご存じだろうか。60すぎの男が汽車で北海道を旅しながら、窓外の風景を眺めている

 ▼時節は5月。桜は満開なのに、みぞれのような冷たい雨が降り続く。海岸沿いの漁師の家の群落は海を向いて立ち、見えるのは裏ばかり。「もうとつくに還暦をすぎた男が乗ってゐる汽車は 雨の噴火湾を大迂回して網走へ行くのである」。目的地はまだだいぶ遠い。1966年、捷平が62歳のころ行った北海道旅行に想を得て書いたという。それから50年たった今だが、近い将来、この詩の味わいが薄れてしまう日が来るかもしれない。JR北海道が先週発表した維持困難路線に石北線新旭川―網走も含まれているからである

 ▼廃線となれば、噴火湾から網走までつながっていた鉄路は過去の記憶と記録の中にしか存在しなくなる。ところで維持困難路線は全体で10路線13区間、道内営業区間の約半分に当たる1237・2㌔もあるという。事態は相当に深刻だ。JR北海道には責められて仕方ない部分も多いが、冷静に見るべきは鉄道を必要とする利用者が減少している事実だろう。貨物はまだ鉄道に強みがあるものの、人の移動は車やバス、飛行機に多くが流れている

 ▼本道は広い。事業者間には競争もあろうが、効率的な交通網をつくるには全ての地域と手段を組み合わせて最適解を見いだす必要がある。不便を強いられるのはいつも高齢者や子どもら交通弱者だが、切り捨てでなくいかに全体として充実させるか。関係者は知恵を絞ってほしい。


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