本道に縁の深い作家椎名誠氏の並外れたビール好きは、つとによく知られている。数あるエッセイ集のどのページを開いても、必ずと言っていいほどビールを飲んでいる場面に行き当たるくらい
▼試みに、手元の『焚火オペラの夜だった』(文藝春秋)を繰ってみると、すぐにこんな一文が出てきた。「一気に夜のビールに強烈に効くヒハヒハウグウグ態勢に突進していった」。実にビール愛あふれる表現ではないか。そのビールの主要な原料であるホップの苦み成分に、認知症の多くを占めるアルツハイマー病を予防する効果があると分かったそうだ。28日付読売新聞が伝えていた。飲料業大手キリンと東大、学習院大の共同研究チームがその仕組みを解明したのだという
▼何でもアルツハイマー病は加齢により、「アミロイドβ」という特殊なたんぱく質が脳内に蓄積されることで発症するらしい。苦み成分には脳内の免疫細胞を活性化させる働きがあり、これが「アミロイドβ」を取り除いてくれるのだとか。およそ病気の予防といえば、栄養に気を配った食事を心掛け、規則正しい生活に努め、ストレスをためずに生きることが大切とされる。正直なところ凡人にはなかなか実践できかねる習慣と言わざるを得ない
▼それがどうだろう、ことアルツハイマー病に限っては、ジョッキを「ヒハヒハウグウグ」と傾ければいいというのだからビール好きには幸運と言うほかない。まあ実際はそんな単純な話ではあるまいが。さて、もうすぐ忘年会シーズン。飲む口実がまた一つ増えそうな予感である。