今回の第一生命「サラリーマン川柳全国ベスト10」第2位はこんな作品だった。「『ちがうだろ!』妻が言うならそうだろう」
▼あの店へ行くにはここを右に曲がった方が早いのだが、妻が左と言うのだからそういうことにしておこう―。夫のそんな心のつぶやきが聞こえそうだ。逆らったら後が怖い、夫婦の間に波風を立てたくない、理由はいろいろあろうがこれぞ家庭円満の極意。共感する人も多いのではないか。夫と妻ならかろうじて笑い話にもできるが、現実社会ではこうしたいびつな力関係が良識を破壊してしまう例も少なくない。日本ではよくありがちな事態だろう。最近話題の大学運動部員と監督をはじめ、部下と上司、出入り業者と取引先の幹部など上げればきりがない
▼最近明らかになった神戸市立中学校の女子生徒いじめ自殺調査メモ隠蔽(いんぺい)問題もどうやら同じ。こちらは神戸市教育委員会の首席指導主事が「出すな」と言い、校長が「主事が言うならそうだろう」と従ったらしい。調査メモとは2016年10月に生徒が自殺した直後、教師が同級生6人から聞き取りをした文書のこと。存在は知られていたものの、遺族の求めに校長は一貫して「記録として残していない」と主張していた。その裏には主事からの指示があったというわけだ
▼主事のこの隠蔽理由を聞いてさらにあきれた。「事務処理が煩雑になるから」。生徒が亡くなっているのに主事は事なかれ主義で校長は言われるがまま。その上、教職員に口止めまでしていた。こんな身内円満の極意に誰が共感できよう。