北大に学び大正期に活躍した日本登山界の先駆者板倉勝宣は机上の空論を嫌った。当時、山に登ったこともないのに訳知り顔で登山を批判する人が多かったためらしい
▼よほど腹に据えかねていたのか、そんな内容のない議論をする人への怒りを随筆に記している。「他人の思想をそのまま右から左に受けついで蓄音器となる人や、他人の考えを筆にしてタイプライターとなる人が増す」(「五色温泉スキー日記」)。「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書改ざん問題を調査していた財務省がおととい、結果を発表した。それを聞きこの一文を思い出した次第。昨年から続く国会でのいわゆる森友騒動はつまるところ、机上の空論を膨大に積み重ねただけではなかったか
▼もちろん今回の調査で実態や経緯が明らかになった官僚の公文書改ざん自体、決して許されることではない。主導した佐川元理財局長の責任も極めて重大だろう。一方で安倍首相が土地取引や改ざんに関与した証拠はいまだ出ていない。野党とマスコミは当初、首相が取引に直接関与したと疑い、それが無理となると次に忖度(そんたく)させたのが悪いと主張を変えた。首相の政権運営に多少緩みがあったのは確かだろう。ただ、詐欺や財務省の不遜な体質は明るみに出たものの本丸には届く様子もない。国会を空論で浪費するのはいいかげんやめにしてはどうか
▼同じ時間でどれだけ少子高齢化や社会保障、デフレ脱却といった懸案の議論を深められたかしれない。蓄音器やタイプライターにいくら言っても無駄かもしれないが。