きょうが仕事納めという人も多かろう。ことし一年も無事働けたと肩の力が抜ける日である。もっとも息をつくのもつかの間、家に帰ればすぐに雑巾を持たされ大掃除に駆り出されるかもしれぬ
▼家事評論家桑井いねさんが、随筆「暮れの大掃除」で12月に入ってから順にすす払い、拭き掃除、畳替え、神棚や仏壇の手入れと進めていく昔の習慣に触れていたが、今は年末に追い立てられてするのがほとんどでないか。安倍首相が米ハワイの真珠湾を訪問中だ。真珠湾攻撃の犠牲者を、オバマ米大統領とともに慰霊するためである。北方領土問題や平和条約について話し合った先日のプーチン露大統領との首脳会談に続く、戦後政治の大掃除の一環だろう。追い立てられたのかどうか、どちらの日程も年末に詰め込まれた
▼きょうの慰霊で安倍首相は戦争の惨禍を二度と繰り返さないことを誓い、かつて敵対していた日米両国が現在、緊密な同盟関係にある歴史を希望の印として世界に「和解の力」を訴えるそうだ。最近、「過去は変えられる」との論を聞くようになった。常識に反するようだが、要は事態が改善されると過去はただの苦痛から、成長のための跳躍台へと認識が変わることをいうらしい
▼評論家十返千鶴子さんにとって12月8日という過去は「鉛を飲んだような重い気分と深い衝撃」(随筆「忘れられない日」)だったそうだ。米国民は同じ苦い記憶に加え、いまだ憤りも感じていよう。安倍首相の慰霊が日米両国民の心を掃き清め、過去や未来を変えるきっかけになればいいのだが。