連鎖する災害への対策探る 北大らが防災・減災セミナー

2018年06月19日 08時30分

 北大の突発災害防災・減災共同プロジェクト拠点はこのほど、北大構内で北海道防災・減災セミナーを開いた。前北海道開発局長で工学研究院地域防災学研究室の今日出人特任教授らが道内の防災対策や国土強靱(きょうじん)化に関する課題を指摘。続いて、拠点構成員が道内の連鎖複合型災害について討論した。

 突発災害防災・減災共同プロジェクト拠点は、2015年4月に発足。突発的に発生する災害への対応策を探るため、理系、文系の垣根を越えて分野横断的に自然現象と社会構造を研究し、災害に強いまちづくりへの提案をしている。

北海道防災・減災セミナーで講演する今日出人特任教授

生活圏の維持など防災への課題を挙げる今教授

 今特任教授は「北海道特有の防災・減災課題」と題して講演。特に地方での生活圏維持の難しさを課題に挙げた。人口減少に伴い地方都市間の距離が遠くなっていることや、商店・ガソリンスタンドの閉鎖で物流面の脆弱(ぜいじゃく)さが増し、災害発生時の共助の前提が崩れていることに危機感を示した。さらに、防災対策は他の公共事業と違い、必要性の理解や普及が難しいことから、地域での成功事例評価も重要とした。

 国土審議会会長で農学研究院の奥野信宏客員教授は、地域づくりの視点から見た国土強靱化について説明。ハード整備が必要となる一方、「NPOや住民団体など多様な主体の平時の活動が、人のつながりを生む」として、共助社会を実現するシステムづくりの必要性を説いた。

 拠点構成員らの討論では、北海道総合研究機構の丸谷知己理事が複数の災害を受け入れる〝場〟に注目する必要性を強調。地滑りや土石流、洪水といった個々の現象研究が進む中、「津波や土石流、雪などいろいろな災害が複合して場を形成しているため、住民立場から見れば〝場〟の災害と言える。土着が強い産業ほどレジリエンス(抵抗力・回復力)が難しい。いつ・どこが危険かということも大事だが、〝場〟という面から災害を洗い直すことも大事」と主張した。

 文学研究科の橋本雄一教授は、道などと取り組んでいる豪雪地帯での避難路確保の研究を取り上げた。日本海側は、地震発生から短時間で津波が来るのが特徴。このため、住民にGPSを持たせて避難訓練をすることで、どの地点で遅れが発生するかを明らかにし、足が止まりやすい雪だまりのポイントなどの解消につなげる。

 農学研究院国土保全学研究室の小山内信智特任教授は、ことしから3カ年で取り組む科学研究費助成事業「連鎖複合型災害現象のメカニズムと人口急減社会での適応策」について説明した。

 地盤変動の活性化や気候変動の影響で、地震や豪雨といった単発災害が短いスパンで連鎖的に発生し、連続的に災害を引き起こす例が増えている。これら現象間のつながりを分析し、人口急減する地域での脆弱性を解決につなげる。

 16年8月に発生した十勝地方での土砂・洪水災害や釧路市の津波防災・減災策、雲仙普賢岳溶岩ドーム崩壊のリスク検討などに取り組む。

 同拠点は今後、「広域複合災害研究センター」として学内共同研究施設での組織化を目指す。大規模化する災害に対応するため、関係行政機関や地域との連携を強化し、災害情報のデータベース化や本道特有の広域・連鎖的な複合災害に対応したガイドラインの提案に取り組む方針だ。


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