型破りな両津勘吉巡査長を主人公とする秋本治さんのギャグ漫画『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(集英社)の話の一つに、両さんが署の弁当需要を目当てにひともうけをたくらむ「亀有弁当大戦争ぼっ発!の巻」がある
▼既存2店より安い価格を売りに新規参入し、客を独り占めしようとの作戦だった。当初こそ一気にシェアを伸ばしたものの敵も負けていない。さらなる値引きで対抗してくる。仁義なき戦いだ。途中1店がつぶれ、2店が低コストのおにぎりで最終決戦。両さんが1個34円で売ると向こうは24円に。後は8円、4円、50銭と互いに値を下げ1毛になったところで相手店は降参した。ところが2538個も売った両さんの稼ぎは3円25銭4厘7毛のみ。大損である
▼そこまで極端ではないにせよ、こちらも構造は似たようなものだろう。日本銀行がおととい、「アマゾン」などインターネット通販が既存小売企業の値下げ圧力になり、物価下押しに影響を及ぼしているとの調査結果を公表した。拡大するネット通販が安売りを主導し、実店舗が後を追う。その止めどない価格競争が一国の物価まで左右しているというわけである。ネットと実店舗を比較して買う、が半ば常態化している現状を見ても意外な話ではない
▼安く買いたい消費者にとって当然の行動とはいえデフレに貢献と聞くと少々胸がざわつく。ネットに傾くあまり既存店がつぶれ地域経済が収縮するのもやはり大損だろう。ネット通販企業は役立つが、他を顧みず独り占めを狙う両さん並みの欲深さもあるから気を抜けない。