日本人が自らを評して言う決まり文句の一つに「忘れっぽい国民性だから」がある。政治の暴走や企業の不正が繰り返されたときなどに、半ば自虐的に口にすることが多いようだ
▼真偽は分からないが、自然災害が頻繁な国土ゆえ、普段の暮らしを取り戻すために、気持ちを早く切り替えるすべが身に付いたと聞く。『方丈記』(鴨長明)の「うたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまることなし」の達観だろう。さはさりながら少々忘れるのが早すぎやしないか。ほかでもない北方領土の件である。安倍首相とプーチン露大統領が日本で首脳会談をしたのは昨年12月のこと。まだ2カ月もたっていないのに、今は世間で語られることもない
▼四島返還に直接つながる成果は聞かれず、まずは将来に向け共同で友好のレールを敷きましょうと確認した程度だったから、頭に残りにくいのは無理ないのかもしれぬ。加えてこの米国発のトランプ台風である。土台の弱い話題は簡単に吹き飛ばされてしまったようだ。帯広出身の歌人時田則雄さんに一首がある。「持続とはつまり挫折のくりかへし車窓音なく走る電柱」。領土交渉も挫折を繰り返しながら、うまずたゆまず続けていくしかないのだろう
▼道の2016年度北方領土中学生作文コンテスト結果が先日発表になった。最優秀賞に輝いた鹿部中3年の米本開人君はこう気付いたという。「過去の問題ではありません。今も起こり続けている問題なのです」。皆が忘れてしまえば返還の望みも消える。きょうは「北方領土の日」。達観にはご遠慮願おう。