禅を修業する者たちが室町時代から連綿と編み続けてきた語録『禅林句集』に「龍吟雲起虎嘯風生」の言葉がある。「龍吟じて雲起こり、虎うそぶきて風生ず」と読む
▼中国の古典に元となる一節があるそうだ。「龍」と「虎」ときたらすぐにけんかが始まり、全て破壊してしまいそうだがこの句にそんな意味はない。諸説あるものの「それぞれがそれぞれを相伴うことによって一層その勢いを増す様」を表すという。つまり「龍」が雲、「虎」が風を伴うことでますます勢いを増し、互いに刺激し合うことで両雄並び立つ存在になるわけだ。人も同じこと。大きな器量を持った二人の禅者が相まみえれば、より高い境地に達することができるのである
▼おとといの党首討論もそんな高みを目指す議論になればいい、と期待したが肩すかしを食った。枝野立憲民主党代表ら野党5党首も安倍首相も、これまで何度も聞いたような話を一方的に主張するばかり。どうやら今の国会には「龍」も「虎」もいないとみえる。野党5党首も舌鋒(ぜっぽう)だけは相変わらず鋭かった。ただ内容に新味がないため勢いはつかず、風も雲もまるで起きない。揚げ句、途中から党首演説になってしまった枝野代表は安倍首相に、「党首討論の歴史的使命は終わった。まさにそう思う」と前回の自身の発言を混ぜっ返される始末
▼もっとも、これが首相の真意なら考え直すべきだろう。国政の最重要課題を、優れた議論で国民に分かりやすく伝えられるのが党首討論の意義である。わけの分からぬ「禅問答」に興じる場ではない。