緊張を強いられる作業や取引をこなし、時には筋の通らぬ要求にも耐えてたどり着いた週末の解放感といったらない。社会人なら誰しもがうなずくことではないか
▼明治生命に勤めながら小説や評論を発表していた水上滝太郎はかつて、随筆集『貝殻追放』にこんなことを書いていた。「土曜の夜の酒の味が、平生と違う事を知らない者には、日曜の朝の楽しさは解るまい」。どんな安酒も胸中で高級酒に変わるのだ。週休2日の現在、これは土曜でなく金曜の夜ということになろう。その特別な日を経済の活性化につなげようと、政府と経済界がタッグを組んで「プレミアムフライデー」なるものを始めるそうだ。きょうはその初日である
▼経産省によると、趣旨は「日常よりも少し豊かな時間を過ごす」だそう。帰宅時間を少し早め幸せな生活を演出するらしい。ただ設定が毎月末の金曜となれば、出たばかりの給料を多めに使わせようとの狙いは隠しようもない。要は「アベノミクス」第3の矢の一手である。ところで鳴り物入りで登場したこの仕掛け、笛に合わせて踊る人はどれだけいるのか。普通は楽しいから踊るのであって、その逆ではない。景気の良いときには誰に言われずとも毎週末、特に月末の金曜には大いに盛り上がったものだ。いわゆる花の金曜「花金」である
▼今回のプレミアムフライデー、意味のよく分からない横文字にしたあたり、いかにも小手先な感じが否めない。でもまあせっかくだ。きょうは酒がプレミアムな味になっているかどうか、確かめてみても悪くはあるまい。