先の日曜日の夕方にはテレビの前で共に戦い、涙した人が多かったろう。大相撲春場所千秋楽で横綱稀勢の里が優勝を決めた取組のことである。13日目に負傷したにもかかわらず休場せず、もぎ取った優勝決定戦ではなりふり構わぬ捨て身の小手投げで照ノ富士を打ち負かした
▼窮地に追い込まれてからの逆転劇。本人たちには申し訳ないが、観客にとってこれほど面白い勝負はない。実にいいものを見せてもらった。新横綱の優勝は1995年初場所の貴乃花以来22年ぶりだという。しかも日本出身横綱である。少々熱狂が過ぎるのも致し方あるまい。優勝インタビューで稀勢の里は、「自分の力以上のことが最後は出た」と語っていた。世話になった人々、とりわけその才能を見いだし育ててくれた先代師匠の故鳴戸親方の顔も浮かんでいたのだろう
▼それにしても今場所は田子ノ浦部屋の存在感が目立った。弟弟子の関脇高安も12勝3敗で殊勲賞を獲得している。強い力士が育つ気風が部屋にあるに違いない。わが社にも田子ノ浦部屋のような人が育つ気風があるだろうか―。この時期、そう自問する経営者もいるのでないか。もうすぐ若者が職業生活の初場所に立つ4月である。各社とも新人を迎える準備は既に整えていよう
▼ただ、どんな立派な教育マニュアルがあっても、その組織に前向きの気風がなければ人は育たぬといわれる。諦めずに精進を重ねた稀勢の里、大成を信じ辛抱強く待った師匠、先輩の背を追い続けた高安。田子ノ浦部屋に学びたいものだ。会社の春場所も、また始まる。