古希を過ぎた今でも毎日休むことなく厨房(ちゅうぼう)に立ち続ける天ぷら職人がいる。東京の門前仲町に店を構える「みかわ是山居」の主人早乙女哲哉さんである
▼その早乙女さんがNHKの人物ドキュメンタリー「プロフェッショナル 仕事の流儀」に取り上げられた際、こんな目標を披露していた。「130歳まで追い掛けるつもりでいるの。60歳で辞めようと思って線を引いたら、それでおしまいなのよ」。現実に生きられるかどうかはまた別の話。ただ、そこまで自分に言わせるのは「穴を埋め続け」たいからだという。穴とは自らの技術の至らない点のこと。道を究める職人の執念を見た気がした
▼国立社会保障・人口問題研究所が10日、日本の人口は2065年に8808万人にまで減少するとの推計を公表した。65歳以上の高齢者が占める割合も38.4%と4割に迫るらしい。何とも寒々しい推計だが、もし早乙女さんのような高齢者が増えるなら、それほど心配することはないのかもしれない。日本老年学会などが医学や生活実感から「高齢者は75歳以上とすべき」と提言したことは以前、小欄でも触れた。それが実現すれば高齢者人口は10歳分減り、生産年齢人口は同じだけ増えることになる
▼出生率の改善や女性の社会進出が軌道に乗るまでの苦肉の策だが、生産年齢の枠を広げるだけで経済の循環を促せるなら試して損はあるまい。それに、いくつになっても向上心を持ち続ける早乙女さんのような人は日本に多いはず。結局のところ国の力は人口でなく、人で決まるのである。