ある町の移住促進PR動画に「オカエリナサイが聴こえる町」というイメージソングが使われている。飾り気のない町の日常風景とともに流されるその歌はとても優しい
▼例えばこんな歌詞があった。家族とけんかした次の朝、暗い気持ちで階段を下りていくと、聞こえてきたのはいつもと変わらぬ元気な「おはよう」の声。そして歌はこう続くのである。「一つ一つが積み重なって 当たり前の日々が輝き始める」。実はこれ、熊本県益城町が震災の前の年に制作していた動画である。未曽有の大地震が連続して起こったあの熊本地震から、きょうでちょうど1年。動画で伝えられた、都会の便利さも自然の豊かさも人の温かさもある当たり前の日々は、まだ戻ってきていないようだ
▼がれきの撤去はだいぶ進み、やっと本復旧に入れるところまではきたらしい。ただ、みなし仮設とプレハブ合わせ7600人、人口3万3000人の町のおよそ4人に1人が、いまだ不自由な仮設暮らしを強いられているという。先の曲を提供したのは、シンガーソングライターの樋口了一さん。鈴井貴之、大泉洋両氏の掛け合いの面白さで人気を博した『水曜どうでしょう』(HTB)のエンディングテーマ「1/6の夢旅人」を歌っていたと言えば、お分かりになる人もいよう
▼樋口さんは熊本市出身。震災後は精力的に支援ライブを重ねているそうだ。そうそう、曲の中にはこんな一節もあった。「がんばれ 大丈夫 元気出して 見守っていると聞こえた町」。空耳ではない。本当に多くの人が心でそう叫んでいる。