帯広出身の作家池澤夏樹は、ワープロで書いた作品で芥川賞を受けた最初の小説家だったという。エッセー「デジタル化で失ったもの」に記していた
▼以来、情報機器を活用してきた氏は同じエッセーで、まずデジタル化の恩恵に触れている。「百科事典で一つの項目を引く手間を思い出してみれば、インターネットに重さがないことの利点がわかる」。本など重い媒体からの解放は相当印象深い出来事だったようだ。実はこのエッセー、2009年に出されたもの。当時でも既に驚くほどの利便性があったが、インターネットの世界が今、さらに進んでいるのはご存じの通り。であれば、当然の結果なのだろう
▼インターネットを事業基盤とするソフトバンクグループの17年3月期最終利益が、初めて1兆円を突破したそうだ。10日に連結決算の発表があった。前期比3倍の1兆4263億円というから著しい伸び。株式の売却益もあったが主力の光回線通信事業の好調が、飛躍的な利益の向上に貢献したらしい。最終利益の1兆円超えはトヨタ自動車に次ぐ2社目の快挙。一方、トヨタも同日、決算を発表したもののこちらは円高の影響で5年ぶりの減収減益。明暗を分けた。この3月期は「重さ」がない方の企業に軍配が上がったわけだ
▼池澤氏は、デジタル化で「肉体感」が失われたが「文化的な営みの多くは肉体の参与を求めている」と指摘していた。ならば体験を売る自動車は世界でまだまだ求められる製品だろう。「重さ」がある方もぜひ、日本企業の雄として存在感を示し続けてほしいものだ。