日本実業界の父渋沢栄一は自身の経営哲学をつづった『論語と算盤』(ちくま新書)で、逆境には大別して二つあると教えている。一つは天災や政治体制の刷新といった「人にはどうしようもない逆境」、もう一つが「人の作った逆境」である
▼対処法は、「どうしようもない」場合が逆境を天命と受け止め腰を据えて勉強し続けること、「人の作った」場合が「とにかく自分を反省して悪い点を改める」ことだそう。当たり前のことを言っているにすぎないが、渋沢翁によるとそれを実行するのは難しいそうだ。多くの人は「最初から自分でねじけた人となってしまい、逆境を招くようなことをしてしまう」とのこと。耳が痛い人も多いのでないか
▼耳どころか全身に痛みが走ったに違いないのが世界屈指の自動車安全装置メーカー「タカタ」である。きのう、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。エアバッグの不具合や異常破裂に端を発した経営危機だが、ユーザー無視のねじけた企業姿勢が逆境を深めた。重大な欠陥である。高温多湿の環境に長く置かれていたエアバッグが作動したとき、金属片を飛び散らせて破裂する恐れがあるというのだ。米国では10人以上が亡くなっているという
▼ただ、問題はそれだけではない。タカタは発覚当初、欠陥の事実を認めようとせず、リコールにも後ろ向きだった。その不誠実な態度が結果として1億を超えるリコール台数、関連費用1兆円を招いたのである。最初から「自分を反省して悪い点を改める」に徹していれば、逆境を跳ね返すこともできたろうに。