子どものころに学校で習っただけなのに、不思議と大人になった今でも覚えている歌がある。この季節になるとわれ知らず口ずさむ「夏の思い出」(江間章子作詞、中田喜直作曲)もその一つ
▼「夏が来れば思い出す はるかな尾瀬 遠い空 きりの中に 浮かびくる やさしい影 野の小路」。ついこの続きを歌ってしまった人も多いのではないか。江間さんにとっては尾瀬の旅が忘れられない経験だったのだろう。海水浴、キャンプ、花火大会、家族旅行―。夏の思い出といっても人によっていろいろだが、筆者にとって「夏が来れば思い出す」ことといえば、釧路川のカヌーツーリングである。友人たちとその家族と一緒に楽しんだ屈斜路湖から岩保木水門までの川旅だ
▼透き通った川の上を滑るように進むカヌー。瀬と呼ばれる激流では転覆して全員川に投げ出されるも、笑いながら助け合い態勢を立て直した。夜はテントを張って酒を酌み交わし大いに語り合った。実に愉快な3日間の旅だったのである。もう30年近く前の話で、共に旅した子どもたちは皆立派に成長し、自分らも少なからず年を取ったが思い出はいまだに色あせることがない。大切な心の財産である
▼ドイツの作曲家メンデルスゾーンはこう言ったという。「旅を思い出すことは、人生を2度楽しむこと」。まさにその通り。日本全国、学校は今夏休みである。仕事の都合もあろうが、家族まとまって動ける数少ない機会。子や孫のために、そして自分自身のために、それぞれの「はるかな尾瀬」を見つけに出掛けてはいかがだろう。